養豚飼料も将来はネット・エネルギーへ移行するか
米 国のユナイテッド・ソイビーン・ボードは非常に興味あるカロリー値に関しての研究をイリノイ大学と全米養豚ボード、クオリソイなどと協力しあって行ってい ます。恐らく近々に学会誌にレヴュワー付き論文として発表されるものと思われます。実際にリサーチを行っているのはカナダを含む次の三箇所で、北米養豚エ ネルギー・システム研究プログラムの一環としてイリノイ大学、ミズーリ大学コロンビア校、及び、カナダの非営利研究所であるプレイリー・養豚センターで 行っているものです。
正味エネルギーを使うことは大豆ミールなど飼料原料を最終的には乾物ベースで扱 うことを意味します。乾物ベースとは、原料中の水分を除いた状態のことですから、養豚や養鶏用の配合飼料を作るときにも一番正確だということは云えます が、米国や日本は養豚と養鶏飼料の場合は、飼料原料中の水分を含んだ状態での栄養値として原物中として計算するのが一般的です。その理由には、養豚用に使 う飼料原料が基本的にとうもろこし・大豆ミールが主体になり、他の数多くの原料をあまり使わなくてよいという事情があるからにほかなりません。
デ ンマークなど北欧は、環境汚染に関しての厳しい法律に従う必要があり、違反したときの罰則や課税も厳しいので、可能な限り無駄なものは環境に排泄しないと いう考え方が業界筋でも強いという点があります。更に、使う飼料原料の数が副産物も入れると米国のそれらよりも多いということもあります。使用原料数が多 い場合は、当然のことですが、栄養計算を過不足なく行うための精度を上げ、入手可能な全ての原料を評価する必要があります。この必要性を以前から説いてい るのがEU、特に、北欧諸国です。したがって、EU諸国の多くの飼料業界では、養豚飼料を計算するときには、すでに何らかのネット(正味)・エネルギー・ システムを使っている場合が多いのです。
米国や日本の場合は、代謝エネルギー(ME)や可消化エネルギー(DE)で行ってきていますが、これは飼料が持つ総エネルギーから糞や尿に排泄されたエネルギーを引いた値です。
代謝過程で正味エネルギーの値に至る過程を簡単に書くと次のようなことです。先ず、原料をボンブカロリーメータ(爆灼熱量計)で測定した値が(総)グロ ス・エネルギー(GE)です。グロス・エネルギーから糞に排泄されたエネルギー(代謝産物の値も減じますが、ここでは説明を割愛します)を引いた値が可消 化エネルギー(DE)です。可消化エネルギーから尿で失われたエネルギー(原料中の窒素など栄養素の不完全な代謝物やクレアチニンなど内性のメタボライト 「異化代謝産物」、また、ゲップなどで放出されるガスも減じますがここでは説明は割愛します)を引いた値が代謝エネルギー(ME)です。代謝エネルギーか ら熱量増加で失われたエネルギー(一部は正味エネルギーとして動物が体温維持のために体内に戻して使う値などの説明は割愛します)を引いた値が正味エネル ギーです。正味エネルギーは、生産(肉、乳、毛、脂肪、働く)に使われるエネルギー(NEP)と維持に使われるエネルギー(NEM)になりますが、後に正 味維持エネルギー(NEM)、正味増体エネルギー(NEG)、正味産乳エネルギー(NEl)に分けられました。
可消化養分総量(TDN)が以前はよく使われていました。それは、飼料原料や配合飼料に対してのパーセント値、或いは、キログラムなどの重量単位で表さ れたものでカロリー値ではありません。大雑把にカロリー値と比較するときには1kgのTDNはDEで4410 kcal、MEで3,696 kcalとしますが、個々の対照に使うのにはあまりにも大雑把すぎるという短所を持っています。
可消化養 分総量(TDN)をエネルギーの値の一つとして使うことへの短所というか限界は重要な損失、例えば、尿、草食動物の熱量増加やガスの損失が含まれていない 点にあります。例えば、乳牛に乾草を与えた場合、TDNは、乾草の蛋白質、繊維、可溶無窒素物、エーテル抽出物それぞれのパーセントを、それぞれの消化係 数パーセントに乗じて可消化栄養物パーセントを出します。エーテル抽出物の場合はそのパーセントに2.25を乗じて、蛋白質、繊維、可溶無窒素物、エーテ ル抽出物パーセントの総合計を出すことで可消化養分総量(TDN%)を出します。一般的には、TDNは反芻獣が使える粗飼料のエネルギーを過大評価すると いう欠点を持っています。
カロリーという言葉はよく使われますが、一般的な技術的定義としては、カロ リーというのは1gの水を14.5℃から15.5℃に上げるのに必要な熱量のことです。キロカロリー(kcal)は1,000小カロリーのことで、メガカ ロリー(Mcal)は、1,000 kcal、或いは、1,000,000カロリーのことで、1サームと呼ばれることもあります。最近、国によってはカロリーよりもジュールを使う傾向があり ます。1Mcalは1,000kcalですが、メガカロリー(Mcal) とメガジュール(MJ)の換算には一般的に次式を使います。1Mcal は4.184 MJ、また、1 MJは0.239 Mcalの関係にあります。
ユナイテッド・ソイ ビーン・ボードが大豆ミールを含む飼料原料を正味エネルギー・システムで評価することに関心を持った最大の理由は、とうもろこしの価格が上昇したことにあ るでしょう。また、とうもろこしやジスチラーズ・トライド・グレインズ・ウイズ・ソリュブルス(DDGS)の方が原料中の栄養素の変動が多いという点にも 関心があったのでしょう。どちらかと云えば、米国産大豆ミールに均一性があることは確かです。その均一性に加えて、大豆ミールのオリゴ糖を下げることで正 味エネルギーを上げるという効果や大豆ミールを生産するときの搾油処理工程で起きるエネルギー・ロスを減らすという研究を進めていけば、米国産大豆ミール の市場での優位性は高まります。大豆ミールのエネルギーを過小評価しないような科学的な裏打ちができることは好ましいことです。そうでなくても、大豆ミー ルは元来、蛋白質給源としてのアミノ酸レベルや有効率の優位性を(販売)セリング・ポイントにしてきていましたし、最近の数々の研究ではアミノ酸組成と有 効性の利点もより明らかになってきています。
また、米国の大豆生産者はボードの栄養審議会の提言を通 して、大豆ミールに含まれているフィチン酸を減らし、リンが環境に多く排泄されないようにする品種を作出することに以前から関心を持っていました。加え て、子豚など幼動物に対しての消化性を上げるためにオリゴ糖を減らした大豆ミールを品種として作出することにはチェックオフの資金を積極的に投入していま した。また搾油処理のときの溶剤をヘキサンからエタノールに変えることでオリゴ糖のかなりの部分が除去できますが、これは搾油処理工程と施設そのものを根 本的に変えなくてはならないので、養豚・養鶏飼料業界が喜ぶように大豆ミールの代謝カロリーを200 kcal/kg 上げたとしても産業の打撃のほうが大きいのかもしれません。ガラクトシダーゼ酵素は飼料の消化を高めることで開発されてきていますが、これなども大豆ミー ルに含まれる蔗糖(6%)、ラフィノース(1%)、スタキオース(5%)の消化を高めることで検討されるようになるのかもしれません。七面鳥を含む家禽は α1:6ガラクトシダーゼ酵素を腸管内に持っていませんから興味のあることです。
このように栄養価を消化 性の面からも実質的に上げていけば、農地に還元できる糞尿の総量も増やすことができるという側面を持っています。国内外の養豚、養鶏、幼動物などへの利用 の点でも大豆ミールをコモディティとして搾油処理して生産することにのみ関心のある国の大豆ミールとは将来明確に差別化していける面を持っています。
個人的には、家畜飼料の栄養値は、乳牛を始めとする反芻獣用飼料の評価と栄養計算のように正味エネルギーと乾物ベースを使うのがよいと思っています。た だ、水分が少ない原料を主体に使ってきた養豚や養鶏の場合は、正味エネルギーに移行することは一般に考えられているよりは難しいと思います。先ず、正味エ ネルギーの算出方法もEUのシステムを使うのか、それとも北米は北米独自のシステムをつくり出すのかを比較検討する必要があります。これはほんの最初の部 分です。もし何らかの正味エネルギーのほうが良いとなれば、飼料・畜産業界も現在使っている原物中の代謝エネルギーや可消化エネルギーなどのシステムと比 べて経済メリットがあるか否かを比較調査する必要があります。
将来、日本でも正味エネルギーと乾物ベース に興味を持つようになるかもしれませんが、その場合、変更に要する時間、費用、業界へのメリット、最終的には消費者へのメリットなどを調べる必要がありま す。乳牛の飼料計算や原料評価の仕方を乾物ベースにして、正味エネルギーで比較するように変えていくのに約10年かかっています。それは、米国のNRC乳 牛2001年版が出てからの大きな変化を指していますが、実際には、米国でも30年以上の歳月がかかっています。私は正味エネルギーを養豚飼料に使う考え 方に水をさしているのではありません。
歴史的な背景を持っている物事を度外視、或いは、無視して新しいシ ステムに変えるのには想像以上の忍耐、言い換えれば、時間と費用が必要だということです。十進法で育った人間にはメトリック・トンやグラムなどは当たり前 のことですが、世界に流通する米国大豆や穀類一つをとっても格付け重量に対しての容積値であるブッシェルが未だに相場や取り引きで使われ、農地区画の基礎 がヘクタールではなくセクションを基にしたエーカーが使われ、メートルの変わりにフィートやインチが使われ、摂氏と華氏が併用され、ガロンとリットルが使 われている現実は無視できません。
特に、穀類など農作物に使われる特殊な単位は、米国の建国の歴史と一緒 に残ってきたものですから、簡単に変えられるものではありませんし、取り引きをする日本を含む外国の商社も下手にメトリック・トンに変えられると内部でも 混乱が生じるでしょう。パナマックスの積荷はトンで云いますが、バージのような艀はブッシェルを使います。また、米国の場合は、トン数が米トンという 2000ポンドを1トンとする単位がトラック輸送や表示などには多く使われています。メトリック・トンであれば2200ポンドですから、米トンはメトリッ ク・トンに対して約1割少ない重量になります。これは、米国国内の法律だけ改正すれば、すぐに変えられるというほど国が小さくありません。日本の一部の評 論家や年配者は、戦後、尺貫法をメトリックに直す法律を通して短期間に直せたのは日本人が優秀だったからだと言う人が居ますが、これは米国など大国の複雑 な歴史と社会背景を熟知していないことによるコメントでしょう。
私は米国大豆や大豆ミールそのものは、何れの評価方法をとってもすでに競争に耐えうるレベルにあると思いますが、それを更に改善していこうという産学協同 の姿勢には敬服します。確かに、豚一つをとっても繁殖性を高め大型化するなかで、世界中でより強まる赤身肉の需要に向けて生産量を増やすことを考えるので あれば、米国であれ日本であれ、飼料の側から量的に支えられる重要な二大栄養組成分はエネルギーと良質な蛋白質(アミノ酸)につきます。勿論、栄養バラン スの取れた飼料であることが前提です。特定の酢、酵素や菌類、ビタミンやミネラルなどのみがあたかも肉や卵を生産すると思うのは、栄養代謝に関して素人の 多くの消費者が信じたがる残念な側面であることを指摘したいと思います(瀬良、2008)。 |