瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2006年9月 (143)
エクストルード大豆に魚油を少量給与した牛の乳汁中脂肪酸組成など
先ず、簡単に結論の一部を書きましょう。リノール酸の給源であるエクストルード大豆のような原料に低レベルの魚油を飼料に添加して給与すると、泌乳牛の飼料摂取量や産乳量を減らすことなく、牛乳中(乳汁中)の共役リノール酸(CLA)とバクシン酸を増やします。
大豆の油分1.67%(エクストルード大豆として8.87%)、及び、魚油0.33%が泌乳牛用飼料総乾物量中に含まれているとき共役リノール酸(CLA)とバクシン酸が増えるという興味ある研究を報告したのは南ダコタ州立大学の著名なシンゴイシー(ドイツ発音、シンゲート)教授を含む計5名です。
試験には乳牛ホルスタイン種が8頭(産乳日数189日±57日)、ブラウンスイス種が4頭(産乳日数126日±49日を使い、28日の給与試験、4×4ラテン方格の反復で行っています。対照区、試験飼料とも粗飼料と濃厚飼料を乾物1:1の比率でつくり、試験飼料3区については添加油脂2%(魚油を総飼料乾物中、0.33%、0.67%、1%)として残りの油分をエクストルード大豆から得ています。乾物摂取日量は、対照区、魚油が低レベル、中レベル、高レベルの順に23.1kg、22.6kg、22.8kg、22.9kgで全ての飼料区に差はありませんでした。産乳日量は、同じ順で21.5kg、23.7kg、22.7kg、24.2kgで油脂添加をした試験区が対照区に比べて高かったのです。乳脂肪は、同じ順で4.42%、 3.81%、3.80%、4.03%であり、また、真蛋白質は3.71%、3.58%、3.54%、3.55%で、乳脂肪も真蛋白質も油脂添加区(試験区)が対照区に比べて低かったのです。
供試牛の牛乳中の共役リノール酸(cis-9,trans-11 CLA)は、脂肪酸100g中、0.55g、1.17g、1.03g、1.19gで、油脂添加区が対照区に比べて増えています。牛乳中バクシン酸は、脂肪酸100g中、1.12g、2.47g、2.13g、2.63gで魚油が低い区と高い区で主に高かったのです。牛乳中の総n-3系脂肪酸は、脂肪酸100g中、0.82g、0.96g、0.92g、1.01gで全ての油脂添加区において高かったのです。魚油が低い試験飼料区は魚油が高い試験飼料区と同様に牛乳中の共役リノール酸(CLA)とバクシン酸を増やすことに効果があるので、牛乳中の共役リノール酸(CLA)とバクシン酸を増やすのには低い魚油レベルのみが必要です。
牛や人間を含む哺乳動物の持つ酵素により、バクシン酸(18:1 trans-11 VA)は共役リノール酸(cis-9, trans-11 CLA)に変換できますし(Griinari et al., 2000)(Adolf et al., 2000)、最近の研究から受ける示唆では、バクシン酸が乳牛の乳汁中の共役リノール酸(CLA)に変換される度合いは、最大ではなくとも、飼料によるところがかなりあると推察されています。乳汁中に存在する総共役リノール酸(CLA)中、内生的に合成される共役リノール酸(CLA)は64%〜93%であると推定されています(Griinari et al., 2000; Peperova et al., 2002)。このようなことから本報告の研究者もバクシン酸(VA)を増やすことにより共役リノール酸(CLA)を増やすことが研究の重要な部分でもあると指摘しています。
この試験の中で使われている大豆ミール(44% CP)のレベルは、対照区、魚油が低レベル区、中レベル区、高レベル区の順で、総飼料乾物中、15.63%、8.33%、9.89%、11.44%です。また、ソイハル(大豆の皮)のレベルは、対照区と試験区全てがそれぞれ2%です。魚油は対照区には入っていませんので、同じ順で、総飼料乾物中、0%、0.33%、0.67%、1.00%です。エクストルード大豆も対照区には入っていませんので、同じ順で、総飼料乾物中、0%、8.87%、7.09%、5.32%です。これら対照区と試験3区の粗蛋白質(CP)は、総飼料乾物中、19.1%、19.5%、19.1%、19.2%で、エーテル抽出物(EE)は、3.2%、4.8%、4.4%、4.8%です。酸性デタージェント繊維(ADF)は、対照区と試験区が同じ順序で、21.8%、20.8%、20.6%、20.7%です。また、中性デタージェント繊維(NDF)は、同じ順で、30.5%、28.2%、28.5%、29.2%です。非構造性炭水化物(NFC)は同じ順序で、39.1%、39.2%、39.8%、38.4%です。非構造性炭水化物の計算式は、(NFC = 100 ?[CP + NDF + EE + 灰分])です。
上記の報告の詳細に興味のあるかたは米国酪農学会誌(2006. J. Dairy Sci. 89:3972-3980)を参照なさることをお勧めします。
余談ですが、この報告論文は9枚からなり、詳細な乳汁の脂肪酸測定値を含む表5点が付いています。シンゴイシー(シンゲート)教授が扱っておられるので結論もさることながらディスカッションなどが確りしていて面白く示唆に富んでいます。
報告にある配合設計にある非構造性炭水化物(NFC)が、高泌乳牛用の高い数値になっていますが、この数値のかなりの部分はとうもろこしやコーンサイレージによるところが大きいです。粗飼料として使われているのはコーン・サイレージとアルファルファ・サイレージが主で、後は、若干のソイハル(大豆皮)です。
米国の場合、飼料技術関係者や普及専門家の多くは、報告にある非構造性炭水化物(NFC)を酸性デタージェント繊維(ADF)と中性デタージェント繊維と併用しています。この非構造性炭水化物は、日本の飼料技術・普及・関係者の一部、また、酪農経営者の一部も非構造性炭水化物(NFC)をコンプリート・フィードを比較するときの目安の計算に使っていますが、その計算式は、米国で使われているのと同じ(NFC = 100− [CP + NDF + EE + 灰分])の数式を使っています。
方向としては、抗がん性などの観点からも牛乳中の共役リノール酸を上げることに関心が高まっています。そして、魚油を与えることが牛乳中のバクシン酸(VA)や共役リノール酸(CLA)を劇的に上げることも知られています。然し、同時に、魚油を与えると飼料摂取量、産乳量、乳脂肪生産量や乳脂率が、場合によっては劇的に下がること(悪くなること)でも知られています。このようなことからも、この試験結果から判るように、もし魚油を与えるのであれば低レベルの魚油を総飼料乾物中で0.33%とするのが妥当な値だとしたのでしょう。試験飼料の総飼料乾物中のエーテル抽出物が4.4%〜4.8%ですから、魚油と大豆油としての添加量を2%とした添加の中では、魚油の0.33%は大変に低いレベルです(瀬良、2006)。