瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2005年12月 (126)
大腸菌O157:H7の酪農現場での生態
カナダ・アルバータ州とブリティッシュ・コロンビア州の農業試験場の研究者グループ(K. Stanford とD. Croyを含む計6名)が、・アルバータ州南部のコマーシャル酪農経営5戸の協力を得て糞中などに排出される大腸菌O157:H7の状態を調べた興味深い報告があります。
報告は11ページにも及ぶので、ここではその結論の一部を紹介しましょう。(1)牛群の大腸菌O157:H7を軽減する期間は7月、8月、9月に焦点を合わせると良い、(2)また、未成熟な若牛(瀬良、注、子牛、育成牛など)にも目標を定めることが最大の効果を与える、としています。(3)更に、大腸菌O157:H7やそのサブタイプが排出される傾向が、気候的に調整した牛舎で飼われている牛群の最大体細胞数(SCC)と連動していることが指摘されています。従って、そのような似た(現場での)環境が大腸菌O157:H7の糞中への排出と乳房炎の発生件数を促進させるのではないかと示唆されるとしています。(4)大腸菌O157:H7排出には季節的な面があり、未成熟(子牛・育成牛)な牛の方が成牛よりも排出が増えることが指摘されています。(5)牛群管理の中でペン当りの飼育密度を上げること、ペンの牛群の移動回数を増やすこと、衛生管理が粗悪(汚いペン、泥まみれや、湿った環境)などが大腸菌O157:H7の排出に影響を与えるのであろうと指摘しています。(6)然しながら、前述の各条件が相対的にどのようのように影響を与えているかということを現場での生産環境下で調べることはほとんど不可能であることも指摘しています。(7)大腸菌O157:H7の排出を追跡調査するのには糞パッチの方がマニラ・ロープを使う方法よりも薦められるとしています。
研究者グループは、大腸菌O157:H7の排出を糞パッチとマニラ・ロープ(瀬良、注、子牛などが口で舐めるロープ)手法によって毎月検体を採集し、1年以上に渡って行っています。農場はカナダのアルバータ州南部の民間の酪農家5戸ですが、異なる衛生管理や糞尿管理を行っているところを選び、気候的条件や地理的条件の違いが大腸菌O157:H7の排出に影響を最小にしか与えないようにするためにそれぞれが30km内に位置する農場を選んでいます。
農場の試験区数(ペン数)は、12区(糞が6区、ロープが6区)から18区(糞が9区、ロープ区が9区)となっており、それぞれのペンは、頭数、生産ステージ(搾乳牛、乾乳牛、哺乳子牛が1週令から12週令、育成牛が3ヶ月令から9ヶ月令、分娩前)などに分けて記録を取っています。それぞれの農場の搾乳牛群の体細胞数(SCC)については、毎月のバルクタンクの生乳検体をアルバータ州の中央乳検センターに送り、フォソマティック360を使って検査しています。
マニラ・ロープの検査(ロープは120cm)はペンごとの垣根に結び付け、口による接触が出来るようにしてあります。新しい糞のサンプルは、糞パッチで3から5グラムのサブサンプルをペン中にいる牛の20頭分づつについて採集しています。
非常に面白い調査ですので、詳細に興味のある方は米国酪農学会誌(J. Dairy Sci. 88:4441-4451)を参照なさることをお薦めします。
余談ですが、米国ではかなり昔から大腸菌O157:H7(Escherichia coli O157:H7)が多く出るのは酪農のように牛を飼っている農場であり、子牛の糞に多く出ると云われていました。ですから、牛や子牛の飼いつけなどをしたり、触ったりした後は、必ず手を良く洗わないといけないと注意されていました。私も母校のアイオワ州立大学で子牛の栄養試験を手伝っていた学生時代には、「仕事が終わったらよく手を洗わなくてはいけない」と農場長が毎日くどいほど注意してくれていました。特に、食物に触ったり食べる前には丁寧に手洗いをすることが必要だと言っていました。ですから、研究農場で仕事を手伝ってからスーパーなど食品を扱うところにパート・タイムでアルバイトに出かけていた何人かの酪農学部の学生などは、衣類の着替えと消毒や手洗い消毒などを強く指示されていたことを思い出します(瀬良、2005)。