瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2005年10月 (121)

ソイ・ハル(大豆の豆皮)を利用するときの留意点を再度考える

日本国内で、国産、或いは、輸入のソイハルを買うときに当てはまる留意点を先ず冒頭に触れておきたいと思います。(1)国産であれ、輸入ものであれ、相当量の原料を使う前、或いは、相当量の原料を買うときには繊維や蛋白質の分析など一般分析をしておいたほうがよいです。(2)熱処理をしていないソイハルなどの市場もあります。熱処理無しのソイハルを購入した場合は、それを反芻獣である成牛に与えても問題はありません。然し、熱処理をしていないソイハルを単胃動物である養豚や子牛の飼料など、また家禽の飼料に使う場合は、生大豆に含まれているウレアーゼ活性がの数値(絶対的ではないが、傾向として鶏や豚の場合、約0.35pH単位の上昇を上限とする)を知っておく必要があります。因みに、米国飼料工業会では、ウレアーゼ活性をpHで捉えるとき、0.3pH単位の上昇を全ての養鶏飼料の上限値にしています。生大豆の場合のウレアーゼ活性数値は、約2.0〜2.3pH単位上昇です。


飼料栄養関係の専門技術者の方々には周知のことですが、ウレアーゼは大豆などマメ類に多く入っている酵素で、尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解することで知られています。ですから、青刈りのマメ科植物であるクローバーと尿素入りの配合飼料を一緒に混ぜて与えると俗に言われる尿素中毒(アンモニア中毒)を起し、急性の場合は牛が脳神経麻痺を起して死ぬことがあります。


現分析室でソイハルや大豆ミールのウレアーゼ活性を見るときは、検体を尿素と水で混ぜ、pH(酸性度)の上昇を見ます。検体に残っているウレアーゼ酵素が尿素を分解してアンモニアを発生させますが、アンモニアはアルカリ性です。従って、pHの上昇度合いを捉えれば、熱処理に関しての数値として使えます。この数値は、かなり分析されていますし、ミールなどを購入するときの判断に使うためにスペック(購入条件)に入れる場合もあります。

 

ただ、ウレアーゼ活性が家畜の成績と正確な相関関係に無いという数多くの報告があることも認識しておく必要があります。つまり、熱が掛かり過ぎると家禽や単胃動物へのリジンの有効性が下がることへの問題が指摘できるのですが、同時に、ウレアーゼ活性が無い、つまり、pHの上昇がゼロであってもヒヨコの増体日量が改善される点を報告した研究もあります。少なくとも、ウレアーゼ活性は、熱処理が足りないことをチェックすることのみに有効だと言っても過言ではないでしょう。


ソイ・ハル (soy hull、ソイはソイビーンと同義語、ハルは表皮) は、大豆の豆皮のことで、脱皮大豆ミール(デハル・大豆ミール=高蛋白質大豆ミール)を作るときの副産物です。日本では粉砕していない大豆の豆皮が提灯の形に似ていますので業界言葉として「提灯」と呼ぶこともあります。然し、通常は、そのままの「提灯」の形で豆皮を販売流通させるということは、利用者側である酪農家や畜産家にとっても、また、販売者側である日本国内搾油業者や原料扱い業者にとっても何ら利点がありません。そのようなことが判るにつれ、最近では、「提灯」のままで買ったり売ったりする例は非常に減ったように思います。米国では、「提灯」の形でのソイハルの流通は皆無に近く、大抵の場合は、粉砕、或いは、何らかのペレット加工をしたものが流通しています。

 

日本の酪農家は、以前に粉砕していないそのままの豆皮を好んで求めた時代があります。これは、牛、特に、乳牛にそのままの豆皮を与えるほうが繊維の効果が高いと誤って信じた誤解によるものです。大豆の皮は、反芻獣にとって非常に消化性の高い中性デタージェント繊維(ヘミ・セルロース)を含んでいますから、配合設計の中での繊維としての化学計算には貢献しますが、牛が反芻する切っ掛けになる第一胃内での繊維としての物性的効果はほとんど無いと言っても過言ではありません。

 

この繊維の効果という点では、米国でも昔失敗した例が多々ありました。後になってから、反芻機能を促す繊維を効果的中性デタージェント繊維(eNDF = effective NDF)という言葉で分けるようになりましたが、乳牛にとっては、ソイハルの物性面からみた効果的中性デタージェント繊維は実際には僅かに2%しかないという点でした。この点を考えないでソイハルのみで乳牛用飼料の粗繊維や酸性デタージェント繊維を計算し、長めの粗飼料(繊維)を少し与えることをしなかった場合、アシドーシスなどが絡んだ事故を起したり問題を起したりしていました。言い換えれば、繊維だと思って与えていても実際には、ソイハルは非常にとうもろこしなどの穀類に近い性質を持っているということです。ですから、反芻を促す物性的な繊維効果がないことによる問題があったということです。

 

通常のソイハルの栄養価は、従って繊維よりもとうもろこしに近い栄養価を持ちます。乾物中では、TDNが81%、正味産乳エネルギー(NEL)が1.79 Mcal/kg、粗蛋白質(CP)が11%、粗繊維(CF)が39.6%、ADF(酸性デタージェント繊維)が50.0%、NDF(中性デタージェント繊維)が67.2%です。他の穀類や豆かす類の原料同様に、ソイハルの場合、数値が原物中の値であれば、通常は原料中に水分を約10%含んでいますから、前述の乾物中の値よりも数値はそれぞれ約1割低くなります。

 

上記の諸々の留意点は、アメリカ大豆協会から出した拙稿(パンフレット3種類)にも含まれています。(1)ソイハル「大豆の皮」利用に関しての紹介と若干の考察(2001年秋発刊)、(2)デハル「脱皮」大豆ミールや大豆副産物などと他の蛋白質原料との数値比較と若干の考察「大豆ミールを使った畜種別配合設計例と考察を含む」(2002年秋発刊)、(3)環境を考慮した飼料開発時代を迎える畜産と周辺事情「副題:大豆や大豆ミール利用の役割や留意点を含む」(2005年9月発刊)にもかなり詳しく載せてあります。これらの内容は、添付図表などもありますので、協会のサイトには全文の内容掲載はありません。パンフレットに興味のある方は、協会へお問い合わせください。余部が残っていればパンフレット、或いは、コピーしたものをお送りするでしょう。また、121編まで来た拙稿(飼料・畜産トピックス)の中にも時折取り上げていますので、いくつかはヤフーなどのキーワード検索で御覧になれると思いますが、タイトルにソイハル(大豆の豆皮)を使わずに文中後半のディスカッションや個人的見解で触れた部分もあります。

 

尚、先月発刊の「環境を考慮した飼料開発時代を迎える畜産と周辺事情」で紹介した養豚飼料へのソイハルの利用は、パーデュー大学と母校のアイオワ州立大学が2001年に連携して行った環境面からの試験の一部です。環境面から興味あることとして豚舎内での硫化水素の減少32%、アンモニア濃度の減少20%などが報告されていますが、その時の去勢豚と若メス豚用の試験飼料設計も一部掲載しました。試験区飼料へのソイハルの混入割合は10%でした。この内容に興味を示しておられる方々も国内に居られるようですが、やはりこのレベルでの混入割合で試験飼育をする場合は、ソイハルの分析を行ったほうが良いと思います。

 

冒頭でも若干触れましたが、このように相当量をある期間使うときは、何故分析したほうが良いのかという点について、もう少し触れておきたいと思います。日本標準飼料成分表(2001年版)の数値を見ますと豚・鶏:組成、消化率、栄養価の表では、大豆皮 (soybean hull) 乾物中の粗蛋白質は17.6%、原物中では15.8%となっています。同じ順序で、粗脂肪は5.6%と5.0%、NFEは40.2%と36.1%、粗繊維は31.7%と28.4%、ADFは41.8%と37.5%、NDFは54.4%と48.8%、粗灰分は4.9%と4.4%となっています。また、原物中の値の場合、水分は10.3%となっています。また、牛:組成、消化率、栄養価の表では、大豆稈 (soybean stem)、大豆サヤ (soybean pods)、枝豆殻 (greensoybean hull)が載っています。これらは、枝豆殻(green soybean hull)という言葉でも判るように地元で作っておられる枝豆用大豆の生の大豆殻などを指して (green soybean hull)います。これは明らかに生ですから豚用の表に載っていません。つまり、粗飼料として使える副産物の一つですから、ウレアーゼ活性の点からも豚や鶏には使えません。色もまだ生のような色をしていることでも判ります。

 

然し、乾燥して水分が10%程度の大豆の豆皮の場合は、色も黄色に近い色で触った感触も良く乾燥しているのが判りますが、熱処理が施されていない場合は、ウレアーゼ活性の問題がありますから、やはり豚や鶏、また、子牛には使えません。また、大豆を搾油する過程でも、搾油する前の段階でハルや雑物をスクリーン・セパレーター(篩や風圧などにかけて分離する)で除去する場合もありますし、また、搾油処理後にスクリーン・セパレーターでハルを除去する場合があります。更に、生大豆の用途に応じてハルや割れ豆、雑草種子などを篩にかける場会いもあります。それは篩下ですから、ソイハル(大豆の豆皮)とは呼びませんが、そういったものも通常は熱処理無しで流通します。この場合、割れ豆の混入割合が多ければ、当然のことながら、蛋白質や油分の含有量は高くなりますし、場合によっては、雑草種子の混入割合も高くなります。

 

雑草種子は、朝顔の種であれば、クラビンやインドール系のアルカロイドですから、豚が多量に摂取すると軽い下痢を起す程度で問題はありません。然し、多量に混ざることはほとんど無いとは言われるものの、朝顔の種に似た2ミリほどの小さなまがたまのような形をした雑草種子のクロタラリア (Crotalaria SPP) の場合は、ピロリジディン系のアルカロイドであるモノクロタリンやスペクタビリンを含んでいるので、雛などの場合、0.01%で問題を起し、0.05%レベルで毒性問題を起すほど毒性が強いです。その他の雑草の種にも毒性の強いトロペン系のアルカロイドであるアトロピンやスコポラミンを含むジムソン・ウィード (Datura Stramonium)などがあります。これらのレベルが濃厚になるのは、篩に何度も掛けた残渣物の場合ですが、それらを飼料原料として使うと雛、産卵鶏、ブロイラー、或いは、妊娠豚や妊娠牛でも問題を起す可能性はあります。

 

いずれにせよ、ソイ・ハル(大豆の豆皮)に限らず、飼料原料をある程度、長期間に渡って高いレベルで使用するときは、それが飼料会社であれ、畜産農家であれ原料の分析をするか分析値を求めることは大事なことです(瀬良、2005)。