瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2005年7月 (115)

レプチン(leptin)が肉牛枝肉組成の予知に使えるようになるかもしれない

モンタナ州立大やモンタナ州にある国立フォート・ケオグ畜産・牧野研究ラボ、及び、ミズーリ大の研究者グループ(T.W. Geary、他6名)は179頭の肉牛を使ってレプチン(leptin)が屠体組成の予知に使えるかどうかの研究を行いましたが、簡単な結論としてはレプチンの血清濃度は脂肪交雑、背脂肪厚や腎臓、骨盤周辺、心臓周辺などの屠体組成と品質グレードに有意に影響を与えているということです。従って、フィードロットで飼育する肉牛の脂肪含量を予知する指針として使えるのではないかとしながらも、屠殺前に他の予知方法と合わせ兼ねて枝肉価値を予知する指針として使えるかどうかには更なる研究が必要であるともしています。


試験に使った牛は合計179頭ですが、二群で構成されているボス・タウラス系雑種の去勢牛と雌牛でした。一群(CGC = composite gene combination)は88頭で赤アンガス(1/2)、シャロレイ(1/4)、タレンテイズ(1/4)混成からなる去勢牛群でした。二群目(LB = lean beef project)は赤身肉生産プロジェクトの91頭で構成された(F2)の去勢牛と雌牛で、リムジン、ヘレフォード、或いは、ピエドモンテーズの母牛(F1)から生まれた牛であり、父牛(F1)は母牛と同じような牛種背景を持ったものです。


一群(CGC)は生後一年程度で去勢された牛でしたので屠殺まで約112日残した去勢牛でした。育成用飼料(肥育前期)(グローワー)飼料を与え、肥育後期用飼料(フィニッシャー)は屠殺3週間前から与えています。二群(LB)は去勢牛と雌牛で構成されていますから、去勢牛は60日令以内で去勢されています。二群(LB)の牛群は離乳から約363kgに達するまで育成用飼料(肥育前期)(グローワー)飼料を与えられ、その後、屠殺まで肥育後期用飼料(フィニッシャー)を90日、又は、130日与えています。


グローワーとフィニッシャー飼料の設計は下記に示しますが、どちらの牛群にもイオノフォアは与えていませんし、雌牛に酢酸メレンジェステロール(MGA)は与えていません。


CGC用とLB用飼料設計

    

                                            CGC 飼料                      LB飼料

肥育前期 肥育後期 肥育前期 肥育後期
                                         ―――― 乾物中% ―――― 
コーンサイレージ 50.30 48.31 47.60 38.80
ルーサン乾草 19.60 14.30
大麦 25.80 6.14 32.30 57.30
とうもろこし 41.45
大豆ミール 3.03 2.90 4.10 2.70
尿素 0.66 0.63 0.90 0.59
炭カル 0.34 0.33 0.45 0.30
食塩 0.15 0.14 0.21 0.13
微量ミネラル・ミックス 0.09 0.08 0.12 0.08

注  1  :CGC = Red Angus 赤アンガス(1/2)、 Tarentaise タランテレイーズ(1/4)、
                        Charolais シャロレイ(1/2)


注  2  :LB   = Limousine リムジン、Hereford ヘレフォード、又は、Piedmontese
                        ピエドモンテーズの母牛(F1)と同じよな遺伝的背景の父牛(F1)の間に
                        生まれた(F2)の去勢牛と雌牛


注  3  :20% Mg, 2.7% S, 6% Zn, 5% Fe, 4% Mn, 1.5% Cu, 0.11% I, 0.01% Co,
                    及び、0.01% Se を含有するミックスでキャリアーに小ふすまと
                    ミネラル・オイルを使用


平均血清中レプチン濃度や枝肉関係の測定は、CGC区とLB区(F2区)去勢牛と雌牛については平均血清中濃度がヘレフォードが(26.8 ng/mL)、リムジンが( 26.3 ng/mL )、ピエドモンテーズが( 28.8 ng/mL )と変わらず( P>0.10 )、脂肪組織の測定(脂肪厚、脂肪交雑、KPH=腎臓周辺と骨盤周辺と心臓周辺脂肪)も牛種によって変わっていません( P>0.10 )。血清中レプチン濃度も去勢牛( 26.4 ng/mL )と雌牛( 27.7 ng/ML )には差がありませんでした(P >0.10 )。脂肪厚とKPH%については性別についての差はありませんでした( P>0.10 )、然し、去勢牛のほうが脂肪交雑が多く( P<0.01 )、KPH重量も雌牛より多かった( P<0.01 )のです。血清中レプチン濃度は去勢牛、及び、雌牛ともフィニッシャー飼料を長く与えられていたものが高かったのです( P<0.05 )。CGC去勢群のレプチン平均濃度は18.71 ng/mLでSD(標準偏差)が7.40、LB去勢牛と雌牛のレプチン平均濃度が27.03 ng/mL でSD(標準偏差)が8.24でした。


血液サンプルはCGC区去勢牛に対しては屠殺する約24時間前に採集し、LB区の去勢牛と雌牛からは血液サンプルを2検体づつ採集していますが、それは屠殺する約三日前と屠殺時に各一回づつ採集しています。


蛋白質ホルモンのレプチンは哺乳動物の食物・飼料摂取や体組成に影響を与えることで知られています。レプチンが作られる場所は脂肪細胞です。研究者グループは、より消費者の好みに合わせた枝肉組成を肉牛の選抜や飼育管理の中で修正・調整できるのではないかと考えており、その中の一つにレプチンを考えているようです。この報告の詳細に興味のある方は、(J.Anim.Sci.2003.81:1-8)を参照なさるとよいでしょう。


余談ですが、近年、米国においても肉の美味しさを追及する要因を種々検討するようになってきていることは事実です。それは、牛肉について然り、豚肉についても然りです。レプチンは脂肪細胞から出る小さなペプチドですが、一般的には繁殖、免疫機能、飼料摂取と代謝に影響を与えることが判っています(T.G. Ramsay,2003)。私が知る限り、レプチンの研究で肉の味や肉質に絡む枝肉の組成を明確に調べた外国の報告は無いように思いますが、肉牛の枝肉組成を評価するのにレプチンを捉えている報告は、ここで御紹介したモンタナの研究者グループの報告が恐らく最初ではないかと思います。


個人的には、正直な感想としてレプチンが肉の旨さの全てを測定できる要因になるとは思いませんが、興味をそそる側面を持っているので何人もの研究者が脂肪交雑など以外にレプチンに興味を持っていることも事実でしょう。脂肪交雑を枝肉の第十二・第十三肋骨間で計るのと違い、レプチンの場合は牛を殺さないで血液サンプル(血清)から測定できるので、肥育管理の途中で飼料設計などの調整が可能であると考えられているからでしょう。いずれにせよ、かなり長期に渡って飼育する肉牛の成長過程で、血液分析などによって肉の品質や旨さを測定し、それを仕上げ期に向かっての飼料で調整ができるようになれば、消費者の好みにより正確に対応できることになりますから興味が出るのは当然かもしれません。


ただ、ここで錯覚を起こしてはならないことは、米国の一般消費者の場合は、米国格付けのチョイス程度(上から二段目)までの脂肪交雑は許容しますが、それ以上の脂肪交雑には極々一部の消費者以外は興味を示しません。通常は、旨い牛肉とは若さがあり、ジューシネスがあることです。ですから、プライム格付け(最上位)の脂肪交雑を求める消費者層は、数から言っても実際の購入量からいっても3%未満でしょう。きめ細かい脂肪交雑が多く入っている牛肉は少量のみ食べれば美味しいと感じる人も居ることは事実ですが、良質な蛋白質源として牛肉を食べる人のほうが遥かに多いのですから、そのためにはある程度の一回量が必要です。


チョイス程度の美味しい牛肉とは、肉の繊維が細かく、また、肉自体が軟らかく、肉片を口に入れて噛んだときにフレーバー(風味)が良く、美味な肉汁が出る感覚を指しています。肉汁はドリップとして出る肉汁のことではありません。前述のようなチョイスの肉であれば、入手し難い高価なブランド銘の肉よりも好む傾向が強いのです。一般的には、米国農務省が消費者向けに付けている格付けと店頭価格の妥当性、そして食べるときの条件を必要に応じて考え、肉質や部位を個々の好みで買う傾向があります(瀬良、2005)。