瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2005年3月 (107)
(107)ドッグ・フードに低オリゴ糖・低フィチン態大豆や大豆ミールは良い原料
ケンタッキー大学の研究者たちは色々な種類の大豆ミールを使い、ドッグ・フード用の原料としての評価をしましたが、非常に良い結果を得ています(D.L. Harmon et al., 2005)。
簡単に結論などを御紹介しましょう。試験には8匹の成犬(19.3±0.1kg)を使い、低オリゴ糖と低フィチン態の大豆がドッグフードの栄養吸収に与える影響を見ています。全ての試験飼料は等窒素にし、低オリゴ糖・低フィチン態大豆ミール(LLM)、従来からの大豆ミール(SBM)、低オリゴ糖・低フィチン態全脂大豆(LLB)、及び、従来からの全脂大豆(WSB)を蛋白質原料の給源としています。平均乾物摂取日量(DMI)は287±4g/日でした。糞の排泄量はLLBとWSBが最大でしたが、平均乾物として48.2g/日でした。小腸での乾物消化率はLLMの80.9%からLLBの74.0%までありましたが給与区による影響はありませんでした。大腸での乾物消化率には給与区での違いはありませんでした(P=0.652)。全消化管での乾物消化率はLLM(87.0%)がSBM(84.8%)よりも高かったです(P=0.020)。全脂大豆(WSB)二種類を使ったドッグフードの全消化管での乾物消化率に違いはありませんでした(平均=83.3%、P=0.286)。窒素保持はLLMとSBM(1.2gのN/日、P=0.486)の間、或いは、LLBとWSB(0.9gのN/日、P=0.225)の間に違いはありませんでした。小腸での窒素消化率にはLLMとSBM(80.6%、P=0.190)の間、また、LLBとWSB(69.3%、P=0.627)の間に違いはありませんでした。全消化管でのドッグフードの窒素消化率はLLMとSBM(83.5%、P=0.627)、また、LLBとWSB(76.8%、P=0.968)の間に違いはありませんでした。トリプトファンの消化率はSBMのほうがLLMよりも高かったです(P=0.039)。ヒスチジンとトリプトファンの消化率はWSBのほうがLLBよりも、ヒスチジンがP=0.049とトリプトファンがP < 0.001で高かったです。非必須アミノ酸(非必須AA)の消化率は大豆ベースのドッグフード全般の比較で違いはありませんでした。この試験から言えることは、LLM、SBM、LLB、WSBはドッグフード用の蛋白質給源として使え、消化率も高いということです。小腸でのトリプトファンとヒスチジンの僅かな消化率の違いは、低オリゴ糖、低フィチン態大豆やミールを使って配合設計を組むときに考慮が必要かもしれません。
LLM入りドッグフードで使った大豆ミールは配合設計中29.22%、同じくSBMの場合は大豆ミールが30.85%、LLBの場合は全脂大豆が45.25%、WSBの場合は全脂大豆が40.10%使われています。また、LLMの場合、大豆油が8.01%と大豆ミルラン(soybean mill run)が3.60%、SBMの場合は大豆油が同じ8.01%、大豆ミルランが3.62%使われています。
因みに試験に使ったドッグフード用のビタミン・ミネラル・プレミックスの設計は次のようなものでした。ドッグフード1kgに対して最低供給する量:1.3g Mg; 1.3g Na; 8.7g K; 2.2g Cl; 156mg Fe; 154mg Zn; 8.3mg Cu; 13mg Mn; 0.3mg Se; 1.5mg I; 17.8 IU ビタミン A; 1.0 IU ビタミン D3; 0.19 IU ビタミン E; 0.2mg ビオチン; 1,283mg コリン; 1.8mg 葉酸; 49mg ナイアシン;17mg パントテン酸; 8.5mg ピリドキシン; 6.5mg リボフラビン; 42mg チアミン; 0.10mg ビタミン B12です。
ドッグフードのいくつかの栄養価は、LLM、SBM、LLB、WSBの乾物%(DM%)順で:DM 96.3%, 95.9%, 95.8%, 94.3%;; ME, kcal/kg 3,800, 3800, 3800, 3800; CP 19.4%, 21.4%, 21.7%, 18.4%; 粗脂肪 11.5%, 11.7%, 11.6%, 9.2%; 粗繊維 2.7%, 2.9%, 3.0%, 2.1%; Ca 0.80%, 0.80%, 0.80%, 0.80%; P 0.66%, 0.66%, 0.66%, 0.66%; K 0.87%, 0.87%, 0.87%, 0.87%; フィチン態 0.37%, 0.71%, 0.45%, 0.69%; ラフィノース 0.01%, 0.11%, 0.03%, 0.10%; スタキオース 0.01%, 2.50%, 0.04%, 2.74%;; リジン 0.88%, 0.95%, 1.00%, 0.91%;; メチオニン 0.21%, 0.17%, 0.26%, 0.25%; ヒスチジン 0.39%, 0.44%, 0.41%, 0.41%; トリプトファン 0.17%, 0.23%, 0.18%, 0.25%; トレオニン 0.60%, 0.70%, 0.71%, 0.67% です。
研究者たちは、低オリゴ糖・低フィチン態大豆ミール、従来の大豆ミール、低オリゴ糖・低フィチン態全脂大豆、従来の全脂大豆などがイヌ科動物用フード(ドッグフード用)の蛋白質給源として効果的であり高い消化率があることを指摘しています。また、全脂大豆は油分含量が高く、高繊維の原料であるので、排泄物の量などに懸念がなければ、全脂大豆の使用は経費節減になるかもしれないとしています。
この報告の詳細に興味のある方は、米国畜産学会誌(J. Anim. Sci. 2005. 83 393-399)を御覧になることをお勧めします。
余談ですが、以前にイリノイ大学の吊誉教授をしておられたコルビン先生とよくお目にかかる機会がありました。そのころ、共に食事をしながらの多義に渡る雑談の内容を思い出します。その一つはドッグフードについてでした。先生は、ドッグ・チャウフードを開発したとき、犬のことよりも犬の飼い主への正しい啓蒙教育に時間がかかったことを指摘していました。飼い主は、飼い犬に与える食物は人間が食べるものと同じものを与えることが飼い犬にとって最良だと信じていた時代だったので、その点が栄養学的に正しくないことを啓蒙することに主力を置いたが時間がかかったとのことでした。飼い主の誤った考えをストレートに指摘すると、結果として飼い主を怒らしたり上快感を与え、栄養的に正しいドッグフードの啓蒙は失敗に終わるので、いつも与えている飼い主が食べるものを半分ぐらい与え、残りの足りない分にチャウフードを与えることを薦めることから始めたことを話していました。最初は、チャウフードが与えられている割合は、与えられている食物の1割か2割だったそうですが、段々とチャウフードだけでもよいことが判るにしたがい、飼い主の飼いかたも変わってきたそうです。米国のペットフード産業は、コルビン先生の開発先駆者としての永年の活躍や教育活動のお陰で、ペット用飼料の栄養学や嗜好性の面での技術が格段の進歩をとげました。結果として、近年では優れたドッグ・フード商品やキャット・フード商品が多く出回るようになりました。尚、ペットという言葉は段々と使われなくなり、総称として、コンパニオン・アニマルという言葉が使われるようになってきていることも付け加えておきます(瀬良、2005)。