抗生物質を使用しない豚のほうが細菌数が多い
米国では消費者グループの中に環境や人間への健康面から豚などへの抗生物質の使用を止めるよう強力な啓蒙をしている団体があります。放牧を含め、自然な飼い方をすれば抗生物質などは一切要らないという説を唱え、マスコミでも取り上げられています。その影響は小さくなく食品会社や飼料会社もそれに同調する向きが出てきていますし、同調せざるをえないというケースもあります。
その昔、連邦政府から広大な土地を貸し与えらた国立大学に準じた大学、例えば、筆者の母校であるアイオワ州立大学を始めイリノイ大学、ウィスコンシン大学、オハイオ州立大学、コーネル大学などはランド・グラント・大学と呼ばれていますが、そのような国公立大学の多くの学者や専門技術者の間からは影響力を持つ一部の消費者グループの指摘について学識面から問題があるとする見解が多いように思われるのも事実です。
日本でも大同小異というかやや同様のことが起きていることは関係読者はすでにお判りになっていることと思いますので省きます。
米国ではこのように抗生物質などを飼料や飲み水に添加して豚の健康維持と成長促進を考慮するほうがよいと考える学者が多いと思われます。競走馬の育成で有名なケンタッキー州には放牧地帯が多いのですが、ケンタッキー州や東側の北と南カロライナ州などでは抗生物質を使わないで放牧養豚をするほうが自然で良いとする養豚家もそれなりに存在します。しかし、コーンベルト・ソイビーンベルトであるイリノイ、アイオワ、インディアナ、オハイオなどの諸州では放牧地が潤沢にありませんから、飼料原料生産地帯の中で養豚を行う場合は、どうしてもシステム的な大型企業養豚になり豚舎がいくつも連なっているような生産農場になります。
また、今年の夏前から変わってきたブッシュ政権の政策の一つに渡り鳥などが生息する膨大な面積の湿地帯に手を加え、セルロシック・エタノールを生産するための多年草植物(葦なども含む)などを増産するというのがあります。この点を懸念する地域住民や農業関係者は相当に多いと思います。アイオワ州のような緻密な穀類生産を行う農業地帯であっても、日本では考えられないほどの広大な州立自然公園や原生林があり、小さな湖や湿地帯周辺は野外キャンプやバーベキューなどができるようになっています。小さいといわれるアイオワ州一つとっても日本の国土面積のほぼ4割の広さを持つのですから、州各地に数多く点在する湿地帯、林野地、州や群の自然公園などは渡り鳥を含め数多くの野生鳥獣類が生息している場所でもあります。やはりそれらの野地を穀類以外の植物からセルロシック・エタノールを作ろうということには懸念があることは否定できないでしょう。そうでなくても今年になってから異常な投機筋の資金が流れ込んだ結果としてガソリンの値段が上がり、穀類から作るバイオ・エタノール工場の建設や運営が難しくなり計画を放棄しなくてはならない工場もあるのですから。ある意味では農家の人たちもその政策によって振り回されて困惑しているケースがあります。
このようにウクライナ地方の肥沃な平地に匹敵するほどの平野地を有するアイオワ州にも中央部以外は非常に起伏に富んだ地域があります。場所によっては傾斜がきつ過ぎて横転を防ぐようにしたトラクターも入れません。中央部と周辺には巨大なコンバインが作業できるような畑地の側には豚舎を数多く建てる丘陵地帯や野地もあります。穀類生産地帯の真ん中に農協や農家のグレイン・ビンやエレベーター(サイロ)があり、その周辺には家族経営の大型養豚場やインテグレ化した巨大な養豚場が出来てきているのも事実です。ケンタッキー州などに比べ、放牧養豚を考える農家は非常に少ないです。
このトピックスのタイトルは消費者が御覧になると不愉快に思われるかたもいるでしょう。しかし、消費者がいつも正しいということを「抗生物質フリーの養豚生産」については云えないかもしれないということが指摘される研究です。研究を行ったのはオハイオ州立大学予防獣医学のゲブライ準教授をリーダーとして、同大学のパチャニー、ウィスコンシン大学獣医薬学のバーンソン、アイオワ州立大学獣医薬学のファンクとマッキーンなが協同研究者です。
簡単に結論の一部を書きますと次のようなことになります。消費者はより多くの豚を抗生物質なしで飼ってほしいという要請が強くなっていますが、そのような条件を満たすように飼った豚の多くは食物・原材料に由来するヒトに感染する病気の細菌や寄生虫が増えているということです。家畜に優しいという野外で飼うやり方はサルモネラや寄生虫の問題がより大きいと指摘しています。サルモネラは抗生物質なしの豚の半分以上(54%)に見つかりましたが、従来の豚にも(39%)見つかっています。トキソプラズマ・ゴンディは抗生物質なしの豚に約6倍多く見つかり(6.8%対1.1%)ました。自然の方法で飼った豚(検体数計616頭)にトリヒナ・スピラリスが2頭見つかったことは驚きでした。トリヒナは米国の養豚からは根絶したと考えられていた寄生虫です。
抗生物質なしで飼った自然の豚は野外で土にも自由に触れ水が飲めるようになっていました。それらの豚の中で抗生物質で処置しなくてはならなかったのは明らかに感染を受けて疾病を呈したときに治療として抗生物質を使っていますが、その豚は出荷時には自然に飼った豚としては出荷されていません。
研究者たちは北カロライナ州、オハイオ州、ウィスコンシン州の農場で飼われていた豚を調べたものです。研究者が一番驚いたのはトリヒナ回虫が高い確率で見つかったことでした。連邦政府検査官の検査では通常14,000頭に1頭のトリヒナが見つかるかもしれないと想定しますが、今回のようにほぼ600頭に2頭のトリヒナが見つかったということは有意に高いです。歴史的にトリヒナは加熱調理がよくできていない豚肉から見つかるものですが、近年では野生哺乳動物とのからみで見つかっています。前述のトキソプラズマは、やはり自然の中で飼う豚のほうが高い確率で見つかっているといえます。サルモネラは確かに自然の飼い方をしている豚の半分以上(54%)に感染が見つかっているのですが、従来の方法で飼っている豚にもかなり見つかっている(39%)ことからしても、サルモネラの発生を予防するのに抗生物質は充分には機能していないとしています。
ゲブライや研究者グループは抗生物質の利点としては、これら問題のある感染を防ぐということにあると指摘しつつも、不利な点として挙げているのがバクテリアの種類に対して耐性ができやすい環境をつくってしまうことにあるとしています。
ゲブライと研究者グループは一つの養豚生産方法が他の方法よりもよいと推奨はしていません。グループが行ったことは、単に科学的に調査研究した結果を示しているに過ぎないと指摘しています。そして豚を抗生物質なしで家畜に優しい環境で飼育することにより、歴史的に問題をもたらした病原菌が再浮上するかどうかという疑問点については消費者、政策決定者、また、研究者も考えなくてはならないことだとしています。
本報告はオハイオ州立大学予防獣医学、ウィスコンシン大学獣医薬学、アイオワ州立大学獣医薬学の研究者が全米養豚ボードからの基金を得て行った調査研究です。これらは近刊のフィードスタフス誌にもランディーン氏が纏めていますし、ジャーナルの「食物由来の病原菌と疾患」に発表されたものです(P良、2008)。
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